NO IMAGE

人が持つ「優越感」の暗部に問いかけるアニメ「 鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST 」レビュー

「 鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST 」(以下、「FA」)は、「コミックガンガン」連載の荒川弘原作のコミック「鋼の錬金術師」のアニメ化作品で、「ボンズ」が制作しています。

作品名の後ろに「FULLMETAL ALCHEMIST」が付いているのは、2003年にも「鋼の錬金術師」が制作されているため(同じくボンズ制作)、これと区別するためです。前作は原作コミックが初期の頃だったので、設定などが良く言えば自由に展開できたので、キャラクターが共通のアナザーストーリー的な作品になりましたが、「FA」は原作のストーリーが佳境にさしかかった時期に作られたため、おおむね原作に沿ったストーリーになっています。

ところが、放映が最後の方になるとアニメが原作に追いついてしまい、原作者から完成前のラフ画を貰っては急いでアニメを制作するという綱渡りを演じていました。そのような僅かな時間でよくぞここまで、という高いクオリティを保ったアニメでした。

しかも、原作最終話が予想外のボリュームであったため、アニメでは1話分に収まりきらず、63話で完結の予定が急遽1話多くなった、といういわくつきです。原作とアニメがほぼ同時にゴールのテープを切る、という作品は類を見ないでしょう。

アニメ「 鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST 」のストーリー

産業革命時のヨーロッパを思わせる、架空の国アメストリス。この世界では物質を分解・再構成する「錬金術」が科学と同じく体系化され、修行を積んでこの術を操る者は「錬金術師」と呼ばれています。

この国の片田舎、リゼンブールの村で暮らすエドワードとアルフォンスのエルリック兄弟は、独学で錬金術を会得するという天才ぶりを発揮しますが、エド5歳、アル4歳の頃に優しかった母トリシャが病気で他界してしまいます。錬金術を更に深く学んだエドとアルは、エドが11歳の時に母を蘇らせようと錬金術の禁忌である「人体錬成」を行います。

しかし術は失敗、その「リバウンド」でエドは右腕と左足を失い、アルは肉体を全て失ってしまいますが鎧に魂を定着させることで現世に存在を留めます。失った肉体を取り戻すべく、鍵となる「賢者の石」の秘密を知るためにエドは「国家錬金術師」として、「軍の狗」となる道を選びます。エドは失った右腕と左足には意のままに動く機械鎧(オートメイル)を身に着けていることから、「鋼の錬金術師」という二つ名を持つことになります。

元の体に戻るための旅の過程で、二人は大きな陰謀にの渦に巻き込まれていくのです。

街の人々まで細やかに描写するアニメ「 鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST 」の深み

このアニメの優れた点の一つは、錬金術師でない「一般の」人々の描写にあります。超人的な能力での戦いがモチーフになる場合、その能力を持たない人間は物語の蚊帳の外に置かれがちです。

しかし、「FA」では軍人だけでなく、一般の人々の描写も実に丁寧で、これらの人々の決意、勇気ある行動が物語を動かしていく場面も少なくありません。「お父様」の圧倒的な力に打ち勝つことができた要因の一つに「賢者の石」にされてしまったクセルクセス国民の協力がありました。それを可能にしたのは、ホーエンハイムが体内の「賢者の石」となった53万人全てと対話をしたからに他なりません。

逆転の魔法陣に配置された「賢者の石」の一人が、「ホーエンハイムの頼みじゃ、仕方ないね」と言っていることからも、ホーエンハイムと「人々」が信頼関係にあることが伺えます。人を超えた能力を持っている存在が、他を見下してしまいがちになることはアニメであっても現実であってもよくあることです。ホムンクルス達もそのようになりがちな人間の一面を象徴する存在です。

しかしエドは最後にこのような人間の負の面を超克する決断を下すのです。

これが「捨てる」決断ではなく「選ぶ」決断であった点が、この世界が希望に向かって新たな一歩を踏み出したことをアニメを見る者に与えるのです。

・題名:鋼の錬金術師  FULLMETAL  ALCHEMIST
・監督:入江泰浩
・主な声優 朴?美 釘宮理恵 石塚運昇 三木眞一郎 他
・制作会社:ボンズ
・公式サイト:http://www.mbs.jp/hagaren/
・公開日:2009年4月5日〜2010年7月4日(MBS/TBS系列、アニマックス)
・上映時間:30分×全64話

NO IMAGE
最新情報をチェックしよう!