『 惡の華 』は実写ドラマ、映画化された『漂流ネットカフェ』『スイートプールサイド』などで有名な漫画家、押見修造さんの作品で、「別冊少年マガジン」(『進撃の巨人』も連載されているコミック誌です)に連載されていたものをアニメ化し、2013年4月から3か月間放送されました。
思春期の異性への憧れや妄想、そこから生じる葛藤などを、男女3人のそれぞれの思いを交錯させ、哲学的、観念的に昇華させた意欲的な作品です。通常のアニメ以上に、目や頭で考えさせられる作りとなっています。
主人公が「惡の華」の罠にとらわれる一瞬の「魔」
主人公の春日高男は、シャルル・ボードレールの有名詩集『惡の華』を愛読書とする、ちょっと夢見がちで大人ぶった中学2年生。同じクラスの美少女、佐伯奈々子に片思いをしている普通の中学生。ところが、誰もいない教室で佐伯の体操着を盗んでしまったことを、同級生の仲村佐和に見られてしまう。仲村はそのことを学校に報告することもなく、春日をとがめるでもなくこう言うのです。「私と契約して」
この一瞬の「魔」によって春日の世界は、大きく揺れ動いていきます。まさにパラダイムの転換がそこで行われます。佐伯への思い、仲村へ背徳的好意、その両者で春日は思春期ならではの自意識をさらに深め、堕ちていきます。
3者の思いの交錯と「惡の華」の開花
体操着の件を知られることなく、春日は佐伯と両想いになり、彼氏彼女の関係になります。通常ならばそこでハッピーエンドなのですが、この作品の地獄はここから始まります。仲村は春日の「業」を知っているにもかかわらず、佐伯にそのことを言うことはしません。春日が贖罪の意識に揺れているのを楽しむがごとく、春日にさまざまな脅迫を行っていきます。春日はそうした仲村へ、反発するとともに甘美な精神的依存を深めていきます。ある日の深夜、ついに春日と仲村は学校の教室で「惡の華」を開花させます。
「ハナガサイタヨ」
佐伯はそうした春日を見て、ついに隠していた自分をさらけ出します。それは天使か、堕天使か・・・。アニメは、そうした中学校時代の途中で終わります。2期は果たしてあるのでしょうか?
ロトスコープという斬新な表現手法
この作品は通常のアニメ作画ではありません。「ロトスコープ」という手法が使われています。『蟲師』シリーズなどを手掛けた、監督の長濱博史さんがこだわった手法で、まず通常のドラマのように実際の人物でシーンを撮影して、それをもとにトレースを行い、肉付けを行っていくやり方です。通常のアニメのデザインとは異なるものになり、原作の絵とも違うため、放送時には賛否ありましたが、人物の細かい表情やシーンの深みなどがこれによって表現されています。春日役の声優の植田慎一郎さんは、ロトスコープの撮影シーンでも春日を演じられています。まさに春日高男そのものになって画面を作り上げているのです。好みはあるのかもしれませんが、この手法がどんなものなのか、是非一度見ていただければと思います。内容については非常に興味深く考えさせられるもので面白いですよ!