小説、百鬼夜行シリーズはご存知だろうか。分厚いページ数で知られるその百鬼夜行シリーズの二作目、『 魍魎の匣 (もうりょうのはこ)』はアニメにもなっている。これは、京極夏彦のデビュー作『姑獲鳥(うぶめ)の夏』から続く一連の作品で、京極堂シリーズとも呼ばれている。
浮き世離れした美しさ
この作品は元が挿し絵などまったくない小説だ。だからキャラクターの外見や町並み、風景などは読者の脳内にのみ存在する。
だがアニメとなるなら、それを共通にしなければならない。原作ファンとしては非常に敏感になる部分だ。
そしてそのキャラクターデザインには、『コードギアス』『カードキャプターさくら』で知られるCLAMPが抜擢された。
その絵は華美と言っていいほどに浮き世離れして美しい。この物語の中核を飾る女生徒、加菜子と頼子の少女ならではの危うい美しさも、憑き物落としを行う中禅寺もの妖しげな雰囲気も、すべてが幻のごとく美しい。
しかしだからこそ、這い寄るおぞましさは色が増す。
ノスタルジーを感じさせるためか、この作品は全体的にオレンジ、水色、もしくは灰色がかっている。現代ではない時代背景を色彩でも表現しているのだろう。
その中で語られる憑き物関連の話は、夏の黄昏刻、例えば古寺や神社の周囲で興味本意から百物語を始めてしまったような、そしてそれを背後から誰かに見られているようなーーそんな期待感と居心地の悪さを感じさせる。
原作に興味がある人に
京極夏彦作品は世間でも人気が高い。しかしそのページ数、分厚さゆえに尻込みしてしまっている人、また、一度手に取ったはいいものの文体や内容に理解が及ばず読了に至らなかった人も多いだろう。
そんな人にもこのアニメはぴったりだ。時間の制限があったために多少の省略は行われている。しかし、そのストーリーは変えられていない。オリジナル展開やエピソードが混ぜられることなく、原作にできるだけ忠実に構成されている。
なにより、人物の外見や風景を想像する労力なくこの世界を楽しめる。これはかなりの魅力だ。
そしてもちろん、原作読者にも是非一度視聴してもらいたい。中禅寺が陰陽師の装束に身を包み憑き物を落とすシーン。ここでは、視覚、聴覚という原作では感じられない部分で違う迫力を魅せてくれる。
怪談の似合う梅雨と夏。蒸し暑さを吹き飛ばすうすら寒さはいかが?