自由とはなにか。
我々日本人は、俳句で五・七・五のなかに幽幻を、ニコニコ動画β時代で容量100MBのなかにカオスを見出してきた。
たしか村上春樹だか誰だかも言っていた(気がする)のだが、「真の想像力は拘束的な環境下でこそ発揮される」らしい。
そう言われてみると「なんでもありな環境下」において、想像力は退化の一途をたどるような気もする。実際、筆者は科学技術の進歩に伴い容易にえっちなサムシングを閲覧できるようになってからというもの、えっちなサムシングを独力で思い描くことが困難になった。誠に残念なことである。
現実的な話をすると、我々はいつでも何らかの拘束下にある。
夢も希望もなく何となく通う学校には1日の大半の時間を奪われ、あるいは会社では結構長引く風邪をひいて欲しいほど憎たらしい上司の打ち水のような眼差しを一身に浴び、家に帰れば午前様。ブヒブヒ働くことで心は紙やすりで削られるように鈍磨してしまって、正直なところ趣味などにうつつを抜かしている暇などないのだ。
そんな死んだ魚の眼でブヒブヒ働くあなたに今期是非とも見てもらいたいのが、5分程度でサクッと終わるアニメ【とんかつDJアゲ太郎】である。
毎日ダラダラ生活していた主人公・アゲ太郎が、ひょんなことから「とんかつもフロアもアゲられる男」を目指すようになる物語だ。とんかつ屋とDJ、一見かけ離れたように思われるこの2つの職に共通点を見出しながら、アゲ太郎は成長していく。
重厚なストーリーがあるわけではないが、しかし1話5分で完結させるにはやはり工夫がいる。そこでこのアニメのポイントとなるのはズバリ「音」である。
そして、おまけで「とんかつ屋とDJは本当に同じなのか」という命題を掲げ、とんかつ屋の中で発生する音でグルーヴが生まれるのかを検証している。
正直、絵は手抜き風で、作風もほとんどふざけているようにしか思えない。しかし、それがかえってアニメの自由度を広げ、大の大人が見せるバカみたいな「本気」の熱量がすごい。とんかつの油とフロアの熱にまさに同化するかのようである。
視覚・聴覚が刺激され、(あと単純に内容がアホなので)疲れている脳みそにもスカンと入ってくる。
「とんかつ」と「DJ」の知られざる関係。
わずか5分の中に、無限の可能性を見出すことができるこのアニメは、それは我々の乾いた瞳に一筋の光をもたらしてくれるだろう。
(了)
文:若布酒まちゃひこ