機動戦士ガンダム第08MS小隊 で描かれる「絶対的正義」の脆さ

機動戦士ガンダム第08MS小隊 というアニメ作品は、ロボットアニメ制作のサンライズ社が1995年の4月に企画製作したものでしたが、ここから数奇な運命を辿る事になります。当初、機動戦士ガンダム第08MS小隊  は、神田武幸氏の監督のもとに製作や編集作業が進められていました。が、そんな最中に、なんと神田氏が急逝するという事態に見舞われ、機動戦士ガンダム第08MS小隊 の製作や編集作業などを、漫画家の飯田馬之介氏が引き継ぐ事になります。なので、機動戦士ガンダム第08MS小隊 の第1話から第4話までは、故 神田武幸氏が担当し、ストーリー途中の第5話から最終回の11話までを、飯田馬之介氏が監督を行うという、2つのカラーを持つアニメ作品になりました。

そうした、通常ではない制作環境においても、アニメビデオ用の制作作業は何とか順調に進める事ができ、1996年の2月には、第1話と2話が収録された 機動戦士ガンダム第08MS小隊 第1巻のビデオの発売に漕ぎ着けます。

それ以来特に大きな問題も無く、第3話以降から最終話である11話までの全てを99年の4月に至るまでにスケジュールに大きな変更もなく制作を行い、リリースする事ができました。

その後、機動戦士ガンダム第08MS小隊 特別篇としての佐藤淳監督による「ラスト・リゾート」の製作、1998年の7月に発売となりました。

 

当初、神田武幸氏急逝の際には製作続行も危ぶまれただけに、製作スタッフを始め、機動戦士ガンダム第08MS小隊 が世に出る事を望んでいた多くのファンにとっては、感動も大きなものでした。

今回は、神田武幸氏の最後の監督作品となった 機動戦士ガンダム第08MS小隊 で描かれる絶対的正義について、少し掘り下げてレビューしてみます。

機動戦士ガンダム第08MS小隊 で描かれるシロー・アマダ少尉の絶対的正義とは?

元々、主人公であるシロー・アマダという青年は地球周辺の居住コロニーであるサイド2に生まれ、地球連邦軍の士官学校へ入学します。その士官学校を卒業する時期を見計らったかように、地球連邦軍は敵対をしているジオン公国軍の人型兵器のモビルスーツ・ザクによる襲撃を受ける事になります。

非人道的な毒ガス攻撃による惨状を目の当たりにし、復讐心に燃えてそのまま地球への部隊配属に志願するシロー・アマダ。

しかし、地球連邦軍の先行型量産モビルスーツに乗ったサンダースを助けるために自ら志願を、そして彼の救出に成功をします。しかし、シロー・アマダは戦闘中にモビルスーツから脱出したジオン軍の女性パイロットであるアイナ・サハリンと出会います。

お互い敵国の軍人同士、最初はお互いに疑心を相手に抱き、お互いに警戒しますが、次第に二人は恋心を寄せるようになります。

やがてシロー・アマダが地球連邦軍の地上部隊勤務となり、幾度かの戦闘経験を経て陸戦型ガンダムのパイロットとなります。幾度となく繰り返されるジオン軍との戦闘の中で、シロー・アマダは運命の再開を果たすことになります。そう、ジオン軍女性パイロット アイナ・サハリン、彼女との再開です。

アイナ・サハリンと再開した、シロー・アマダは、急速に彼女へと心を開いていきます。そして、それと同時に、地球連邦軍とジオン軍との戦争自体にも、大きな疑問を持ち始め、その思いは、日に日に強くなっていきます。

恋する事で、絶対的であった地球連邦軍の正義、そして正義の戦争、彼自身の考えが少しづつ、そして大きく変わっていく事になります。

そのようなストーリーの流れは、1990年代後半のロボットアニメとしてはかなり珍しいストーリー展開で、製作者サイドとしても、視聴率的に大冒険なストーリー展開だった事だと思います。

機動戦士ガンダム第08MS小隊
画像引用元:youtbe.com

 

小さく始まった「恋」が、やがて「絶対的正義」を突き崩す

機動戦士ガンダム第08MS小隊 の中で見どころと言えば、やはり、シロー・アマダ自身の人間性の変化ではないでしょうか?ロボットアニメなのに、「人間性の変化」とは、かなりミスマッチではありますが、それだけ、この 機動戦士ガンダム第08MS小隊 が他のロボットアニメとは一線を画する作品である所以ではないかと思っています。

シロー・アマダの人間性の変化を感じさせるシーンとして、最も印象に残っているシーンは数多くありますが、特に心の変化の描写が秀逸です。

 

ジオン軍による非人道兵器の使用を目の当たりにして、復讐心に支配され、そしてジオン軍に対する絶対的な正義として、シロー・アマダは地球連邦軍兵士としての任務を全うします。この時点で彼の考えに、相手への「許し」は存在しません。毒ガス兵器を使用して住民を殺戮し、そして仲間の兵士も現在進行形で殺害し続けるジオン軍は、絶対的な悪であり、それを討伐することは、その正反対である絶対的な正義です。少なくともシロー・アマダはこの信念の元に行動しています。

しかし、ジオン軍女性パイロット アイナ・サハリンとの出会いは、彼の心に微妙な変化をもたらします。

はじめは、この変化は、相手に対する些細なものかもしれません。しかし、それは堤防に空いた小さな穴が、やがて堤防を決壊させる大な力になるかのように、シロー・アマダの信じた絶対的な正義もまた、大きく音を立てて崩れ去ります。やがて彼は軍人でありながら、地球連邦軍とジオン軍との戦争自体に否定的な意見を持ち、戦争反対派へとコマを進めます。

シロー・アマダ少尉が与えてくれた感動とは?

ジオン軍女性パイロット アイナ・サハリンとの出会を期に、シロー・アマダは考えを緩やかに変化させていきます。敵方の兵士と話すことで、相手の兵士ど自分と同じである事、そして相手にも家族がいて、愛する人がいて、そしてなにより、自分自身がアイナ・サハリンを愛し始めた事。

これらの事は、シロー・アマダの考えを「戦争から平和」と変貌させるには十分なストーリーです。しかし、機動戦士ガンダム第08MS小隊 で描かれている心理的な変貌は、単純に「平和派になった」というものではありません。そんな単純なストーリーであれば、他のロボットアニメでも見ることができます。

シロー・アマダが私に感動を与えるのは、彼が単純に「平和」に目覚めたからではなく、彼が彼自身の変化を受け入れることができたからです。

大人になると、いろいろと「これってまちがってるよね?」と思いながらでも、なかなかそれを正すことはできません。その結果、問題はより大きな問題に発展し、それに対処する必要が出てきても、「俺が悪いわけじゃないから」といって状況判断を先送りにします。おそらく、それの繰り返しが今の現実の世界です。

このロボットアニメ 機動戦士ガンダム第08MS小隊 で伝えたいメッセージとは、自分自身の変化を受け入れて、それに適応するという事ではないでしょうか?それが「平和」へ繋がる数あるプロセスのうちのひとつである!というメッセージではないかと思うのです。

ロボットアニメを見て、こういう風に物事を考える事ができるのは、機動戦士ガンダム第08MS小隊 が持つ大きな魅力です。

「邪魔する敵を全部ぶっ潰して、味方を勝利に導け!」的なガンガン系ロボアニメに疲れたら、機動戦士ガンダム第08MS小隊 をオススメします。

 

アニメの題名:機動戦士ガンダム第08MS小隊
作者/監督:神田武幸(第1話から5話まで)、飯田馬之介(第6話から11話まで)
主な声優(複数可能):檜山修之、玄田哲章、小山捺美、結城比呂、藤原啓治、その他
製作会社:サンライズ
公式サイト:Wikipedia
公開日:1996年2月
上映時間:第1話から11話まで、合計約5時間40分程度になります。

 

『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』ガンダム版「ロミオとジュリエット」

最新情報をチェックしよう!