近年、劇場版が公開され、何かと話題になっているアニメ『デジモン』シリーズ。今回は、シリーズとしては第三作目にあたる作品『 デジモンテイマーズ 』という作品を取り上げたい。
『デジモンアドベンチャー』(以下:無印)と比べると注目される機会の少ない作品だが、私の中ではシリーズの中で一番魅力的な作品だ。今回は無印との違いを挙げながら、この作品の魅力を伝えたい。
「 デジモンテイマーズ 」のテイマーと選ばれし子供
無印では、主人公たちは「選ばれし子供たち」と呼称され、デジタルワールドを救うために文字通り「選ばれた」、特別な存在として描かれた。それぞれのパートナーとなるデジモンも生まれる前からパートナーとして「選ばれた」、お互い特別な、運命的な存在として描かれた。
それに対し、テイマーズでは「選ばれし子供」という概念は存在しない。パートナーのいる子供は「テイマー」と称され、自らが望んでパートナーを選び、もしくはパートナーが子供を選び、テイマーとなる展開が多い。
そういった意味で、無印では「本当に特別な存在」として描かれた子供たちが、今作では「自らが望めばなれる存在」として描かれる。前作には選ばれたが故の子供たちの戸惑いが描かれたが、今作では、ゲームの延長のような感覚で選んだその道の重要さ、責任の重さを徐々に自覚し、葛藤する子供たちの戸惑いが描かれる。
別々のスタートを切る子供たち
無印に限らず、デジモンシリーズの多くは、主要な登場人物は同時にパートナーデジモンと出会ったり、デジタルワールドに旅立ったり、とにかく選ばれし子供として同じスタートを切る。しかし、今作は違う。
前述の通り、テイマーになる明確な基準は存在しない為、子供たちがテイマーになった時期やきっかけは全て異なる。主人公でさえ、主要なキャラクターの中で四番目という遅いスタートを切る。
しかし、早くスタートを切った者がトップを切るのかと言えば、決してそんなことはない。バトルが強くてもパートナーが進化できずに苛立つ子もいれば、パートナーとの関係が上手くいっているが故に、傷つく姿を見たくなくて戦う事を拒んでしまう子もいる。主人公はと言えば、テイマーになれた喜びでとにかくどんどん前に進み、パートナーもその気持ちに呼応するようにどんどん強くなっていくが、そうなって初めて、自分の心が追いついていないことに気がつく。
『デジモンテイマーズ』は、何もかもばらばらな作品だ。子供たちがテイマーになった時期も、子供たちとデジモンのサイズ感も、子供たちの抱く想いも。だからたくさんぶつかって、たくさん悩む。
そうやって、パートナーと、他のテイマーと、そして自分自身とぶつかり合いながら、ばらばらにスタートを切った子供たちの足並みが少しずつ、少しずつそろっていく。ばらばらの「テイマー」ではなくて、「テイマーズ」になっていく。
三原色を捨てて
『デジモンテイマーズ』を代表するキャラクターソングに、「3Primary Colors(三原色)」という曲がある。主人公の松田啓人(タカト)、牧野留姫(ルキ)、李健良(ジェン)の三人が、物語序盤に抱いていたそれぞれの価値観を歌い、まだお互いに信じ合う事、混じり合って三原色でなくなる事を怖がってる事を歌っている。
自分の価値観を捨て、全く違う価値観を受け入れる事はとても勇気のいる事だ。けれど彼らは彼らなりに戸惑い、時にはぶつかりながら、少しずつ互いの色を受け入れ混じり合っていく。
今でも全く色あせないこの作品を、ぜひ一度見てみて欲しい。きっと、あなたが誰かと、何かと混じり合うきっかけになってくれる。その力が、この作品にはある。
文章:工藤順晴
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