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Project Itoh第二弾『 ハーモニー 』 息苦しくも調和の取れた世界を生き抜く、少女たちの物語

わずか3作の作品を生み出し、この世を去った稀代の小説家「伊藤計劃」。
処女作となった『虐殺器官』では、日本SF大賞候補にのぼるなど数々のSFを唸らせる鮮烈なデビューを飾り、遺作となった『 ハーモニー 』では第40回星雲賞そして、生前に果たせなかった日本SF大賞を受賞した。
予稿だけが残された『屍者の帝国』は、円城塔の手により引き継がれ形として世に残された。

2014年初頭『Project Itoh』と題し、これら全ての作品の劇場映像作品化が発表され、2015年10月より、『屍者の帝国』を皮切りに、ついに劇場公開が始まった。
その第2弾として先日、公開された『 ハーモニー  』 。 3DCGグラフィックの映像美で全面に表現される近未来の世界。回想と今を繰り返し少しずつ紐解かれる人物像。原作小説をうまく映像作品に落とし込んでいる。

ハーモニー のあらすじ

2019年にアメリカを発端として全世界で戦争と未知のウイルスによるバイオテロが発生、政府が一度倒壊した近未来の世界。
その後発足した、新たな統治機構『生府(ヴァイガメント)』により、高度な医療技術を発展させていた。
人々は、成人に近づくと体内に埋め込まれたナノデバイス『WatchMe』により、個人の情報と共に、健康状態などあらゆる情報をシステム管理される。
このデバイスと高度な医療技術により、人々は平等に病気や怪我、痛みさえも感じることがなくなった、恒久的な健康と幸福で満ちた『調和( ハーモニー )』のとれた世界が形成された。

そんな世界に自らの体の情報を管理されていることに、疑問を持ち政府に対して反旗を翻そうと考える少女『御冷ミァハ』と、その彼女の考えに賛同した『霧慧トァン』『零下堂キアン』の3人は、政府に対する反乱としてこのシステムで健康と幸せを管理された世界で自らの命を断つことを実行する。
システムを逆手に取れば、世界の人々を一瞬で殺すことも出来ると言い放つミァハから、人体の細胞を破壊する薬を渡され集団自決を図るも、ミァハ以外の2人は失敗に終わる。

政府のやり方に疑問をもちつつも、ミァハへの思いを宙ぶらりんに抱えたままシステム管理の届かない外の世界で暮らすトァン
かつては政府のやり方に疑問を呈すも、死にきれずシステム管理された世界に順応して生きているキアン
この世界に憎悪し、この世から姿を消したミァハ。

13年後に、とあることから旧友であるキアンに再会したトァン。その食事の最中、キアンはトァンの目の前で『ごめんね、ミァハ』と言い残し突如として、喉元にナイフを突き立て自殺をする。
同じようにいきなり自殺をするという事象が全世界的、同時多発的に起きていると聞いたトァンはミァハの道程を追い始める。

ハーモニー が伝える物語のテーマ性

「project itoh」三作品で、他の二作品がわりとアクションや動きのある作品なのに対して、この『 ハーモニー 』はかなり濃いシリアスなストーリーの、淡々とした会話劇や語りと回想などで物語が進行していきます。
原作では8割近くがキャラたちの会話文や『etml』というマークアップ言語のようなもので成り立っていて、さながら西尾維新の物語シリーズのような構成の小説なので、映像面でいうと派手さはないが独特のカメラワークとか拡張現実の見せ方とか、こだわりを感じる部分は多くありました。

物語の本質的なテーマは、この世界は『ユートピア』な世界なのか、それとも『ディストピア』な世界かという倫理的で哲学的な問題提起を視聴者に要求してくるところ。テクノロジーの発展に支配された世界は果して人々にとって本当に幸福なものなのか。
いやーーこう言葉を羅列すると、頭を使う非常に難しい映画なのかとか、原作小説を読まないとまったくわからないかと言うと決してそうではありません。
二時間という時間の中でしっかりと場面場面や用語を説明しているので予備知識がなくても一本の映画としてきちんと楽しめる構成になっているのでご安心を。

ミァハの狂気っぷり

よく声優さんはキャラクターに命を吹き込むというフレーズを使う事があるけれど、この作品においてはミァハという人物がより際立つ演技をしてくれていると思います。
物語の中心人物でもある彼女の魅力は、幼少の頃に心にトラウマを負い、自ら冷静沈着な心で死を選ぶという狂気さとカリスマ性とミステリアスさ。そんなミァハの魅力を引き出しているのが2015年声優アワード新人賞を獲得した上田麗奈さんの熱演ぷり。こうした声をつけることでキャラが際立つのは映像化ならではでしょう、凄くゾクゾクする声と演技に注目です。

「伊藤計劃ならどう考えるのかではなく、伊藤計劃の書いたものを通じて得たものから、自分ならどう考えることができるのかが問題だ。」
『屍者の帝国』のあとがきに円城塔がこう記したように、この映画を観た視聴者それぞれが答えを考えながら観てほしいと思う作品だ。
伊藤計劃自身がガンと闘いながら描いた医療ハードSF「ハーモニー」。あなたの目にはどう映るだろうか。

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