スーパージャンプで連載されていた人気コミックのアニメ化作品です。原作者は城アラキさん。稲垣吾郎さん主演でドラマ化された『ソムリエ』の原作者でもあり、お酒にまつわる物語のエキスパートです。
『 バーテンダー 』ではカクテルを中心にオーセンティックバーの世界を描いています。ストーリーは原作を重視しつつ、細かな設定でアニメオリジナルの部分もあります。
一話完結のため、一話観るだけでも楽しめると思います。美術設定は青山に実在する名門バー“サードラジオ”をモチーフにする力の入れよう。ナレーションに森本レオさん、声優陣も実力派を起用し、演出も落ち着いた仕様になっています。
原作通りオーセンティックバーの世界観を忠実に描き、エンディングでは作中に登場したカクテルを本物のバーテンダーが作る映像を入れるなど、大人が楽しめるアニメ作品に仕上がっています。
止まり木に集う人間模様。『 バーテンダー 』のストーリー
都内某所にあるオーセンティックバー“イーデンホール”。その店の店主・佐々倉溜は「神のグラス」と呼ばれる至高の一杯を作り出す若き天才バーテンダーです。
彼の作り出す一杯を求め、イーデンホールには様々なお客様がやってきます。若い頃に裏切ってしまった恋人の死に後悔を拭いされない紳士。
仕事に追われる夫との離婚を思い悩む女性。収賄事件に関与した政治家。弁護士や詐欺師、変わり者の学者など実に色々な人々が店にはやってきます。
バーテンダーの語源は「優しい止まり木」。佐々倉溜はそんな人たちの悲しみを癒すため、またある時には沈んだ心に火を点けるため、止まり木に羽を休めに来た人たちに、その人に最も合う一杯=「神のグラス」を提供します。
世界中にある多種多様なお酒を用い、色々なカクテルを作り出すのです。彼は言います、カクテルには無限のレシピ、無限の可能性があると。カクテルだけではありません。ウイスキーを始め多くのスピリッツの語源は「命の水」。
魂を癒す命の水であるシングルモルトをそのまま提供したりもします。そして、実は本当に提供しているのはグラスではなく、サービス=お客への真心なのです。そんな佐々倉溜も「人」です。彼を支えるお客様や先輩バーテンダーも登場します。
お酒をモチーフに様々な人間ドラマが描かれます。
重苦しい雰囲気からは想像できないサッパリ感
オーセンティックバーにはほとんど入った経験がありませんでした。看板もひっそりしているし、内の様子がわからず入り難い印象でした。料金も高そうだし、お金持ちのおじさんが難しい顔して難しいお酒を飲んでいるイメージでした。
この作品を観て、そんな勝手な印象がガラリと変わりました。お酒は皆で楽しくワイワイ飲むものだけではないんですね。
『 バーテンダー 』で描かれるお酒は魂を癒す「命の水」です。
悲しみや辛さを静かに癒す、薬のようなお酒が描かれます。その薬を提供するバーテンダーの想いや苦労、また酒の作り手の気持ちなども描かれ、毎回登場する様々なお客たちの人物像も合わせ、“BAR”の世界を楽しめます。カクテルや洋酒の知識を学べるのもポイント。
カクテルって名前は知っていてもレシピは知らなかったりしますよね。スコッチとバーボンてどう違うの?とか、聴き慣れた名前でも詳細は知らなかったりします。
このアニメではカクテルレシピは勿論、作り方のコツや材料となる洋酒のウンチクも語られたりしていて、とても勉強になります。何より世界にあるお酒の多さ、無限のバリエーションがあるカクテルという物に驚かされます。
お酒というのは文化なのだと実感しました。
そして、このアニメのいちばんの魅力は、お酒と共に描かれる人間模様です。人は誰でも悲しみや辛さを背負って生きています。ストレスの多い現代社会ならばなおさらです。それをお酒と絡め、静かに丹念に描く物語性の高さ。大人が楽しめるアニメになっています。
てなことを書くと「随分重そうなアニメだなぁ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。いえいえ、そんなことはありません。むしろサラリと描いているからこそ魅力的な作品になっていると思います。
個性的でありながら嫌味のない登場人物たち、作画の美しさ、グラスの氷を始めとする丁寧な音響、静かな演出等、スタイリッシュな作品に仕上がっています。観たらきっとBARに行ってみたくなりますよ。
ちなみに、オープニング曲には椎名林檎さんのお兄さんが参加していたりもします。
アニメの題名:バーテンダー
作者/監督:原作・城アラキ 漫 画・長友健篩 監督・渡辺正樹
主な声優:水島大宙・藤村歩・家弓家正・矢島正明・森本レオ
製作会社:パルムスタジオ
公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/b_hp/bartender/
公開日:2006年10月~12月
上映時間:30分枠