アニメ「ブラック・ジャック劇場版」は妖しい輝きを帯びるアンチヒーローの官能的な正義感が見どころです。

『ブラック・ジャック 劇場版』は1996年に公開された劇場版アニメである。

オリジナルのストーリーで製作されたこの作品は、超人類と呼ばれる人々の死に至る病と、彼らを創り出した黒幕の陰謀とそれに対抗する組織などに主人公が関わり、数奇な運命に巻き込まれていく社会派SF医療サスペンスドラマと言えよう。

ブラック・ジャックとは

ブラック・ジャックとは主人公であり、医師免許を持たないモグリの外科医である。ただ、その手術の際のメス捌きは天才的であり、心臓だろうが脳だろうが体のあらゆるところの病変部位を素早く取り除く手腕を持つ逸材である。

モグリの外科医として患者に法外で高額な金銭を要求する悪徳な闇医者のレッテルを背負いながらも、通常の医師がさじを投げた難病を治療して回復させてしまうため、難病患者やその近親者からの治療の依頼が後をたたないという二面性の評判を持つ。

ブラック・ジャック劇場版のあらすじ

ブラック・ジャック 劇場版|amazon

超人類と呼ばれる、特異な才能を有する一群の人間が巷に現れた。彼らは運動や芸術などに驚異的な能力を発揮し、オリンピックやコンクールで信じられない功績を次々に刻んでいくのである。ところがその超人類の人々は、原因不明のモイラシンドロームと名付けられたある共通の病気にかかっていた。

超人類たちはブレーン製薬の出資する研究所に一箇所に集められて入院し管理される。その施設の代表のジョー・キャロル・ブレーンは超人類たちが罹患したモイラシンドロームの治療法の確立と手術を、ピノコを人質にとりながら高額な報酬を餌にブラック・ジャックに依頼したのだった。

研究所に招かれチームに配属されたブラック・ジャックはチームメイトの医者からある動画を記録したメディアを渡される。そこでブラック・ジャックは生体実験の動画内容を目撃するのだが、総合的な診断としてある病原体が脳下垂体に張り付いて、大量のエンドルフィンを分泌させているという仮説を立ち上げる。

しかしチームメイトはM・S・Jと名乗る、“戦う医師団”の一員で、残虐極まりない生体実験を止めさせるために、M・S・Jの武装集団による武力をもって研究所が占拠された。

ジョー・キャロル・ブレーンは生体実験の証拠を隠滅して研究所を脱出し、ブラック・ジャックは、戦う医師団M・S・Jに占拠された中で原因究明をすべく超人類の脳手術を執刀し、病変部位を発見する。

手術は無事成功したが、ブレーン製薬の開発したエンドルフ・アーという薬が超人類を生み出し、そしてその薬の成分である病原菌の副作用で超人類たちが無惨に死んでいくのをブラック・ジャックは患者からの聞き取りなどで詳らかにしてゆく。
ブラック・ジャックは、研究所を脱出してM・S・Jとブレーン製薬会長の刺客に追われているジョー・キャロル・ブレーンとコンタクトを取り、安宿で落ち合うが、エンドルフ・アーの真相に迫り、ジョー・キャロル・ブレーンの非人道的なやり方を糾弾するものの、ジョー・キャロル・ブレーンはピノコを人質に取り続けながらエンドルフ・アーの入ったワインをブラック・ジャックに飲ませて、病原菌に感染させてしまう。

治療法を開発しなければピノコや自身の命が危ぶまれる窮地に立ったブラック・ジャックは研究所に戻り、ジョー・キャロル・ブレーンの手下の研究員の証言を得て、その病原菌はセビア砂漠に生息するフルジウムという花の花粉から生成されているウイルスであることを突き止める。

ブラック・ジャックはそのセビア砂漠にあるブレーン製薬が建設したエンドルフ・アーの秘密精製プラントへ向かい、花粉から治療法の手がかりを得ようとするが、そこには追ってから逃れているジョー・キャロル・ブレーンがピノコと潜伏していた。

ウイルスに感染しているブラック・ジャックとすでに発病しているジョー・キャロル・ブレーンは治療法を求めて、そして、この非人道的な人体実験と生体実験の末の製薬会社の陰謀の真相を追求して、ブラック・ジャックはジョー・キャロル・ブレーンの松果体に入り込んだ病原体除去の脳外科手術を執刀する。

手術は無事成功したが、ブラック・ジャックにも発病していて、ブラック・ジャックも生命の危険にさらされる。

そして、ジョー・キャロル・ブレーンへの刺客達が砂漠の秘密プラントを襲撃して破壊し、ピノコ達とブラック・ジャック達は炎に巻かれるプラントから逃げ出す際にはぐれてしまう。

ブラック・ジャックはジョー・キャロル・ブレーンを背負い砂漠へ逃げ出すが、その先は風で飛んできたフルジウムの花粉の吹き溜まりへ迷い込むのだった。
そこでジョー・キャロル・ブレーンはこの組織的犯罪の動機を語り終えると、ヘリコプター追ってきた刺客がジョー・キャロル・ブレーンを狙撃して死に至らしめる。

一人、生き残ったブラック・ジャックは砂漠をさまよい、発病して末期症状の中、倒れて瀕死のところへ、砂漠の民と呼ばれる遊牧民に助けられる。

砂漠の民はフルジウムの茎のエキスが病原菌に含まれるウイルスの抗体を持っていることを知っており、そのエキスをブラック・ジャックに飲ませて回復させたのだった。

この事実を元に超人類を冒していた薬害による病気の原因が突き止められ、ウイルスの抗体薬が製造されて、原因不明の病気の治療法が確立した。

後日、そのことを学会で発表するM・S・Jのメンバーは、金儲け主義の誤った製薬と人類の欲望への警鐘を鳴らし、物語は医療倫理から環境問題に至る大きな問題と禍根を残しながら落着へと向かう。

最後にM・S・Jのメンバーが夜の雑踏の中でブラック・ジャックを見つけて追いかけ、ぜひM・S・Jに加入するよう懇願するが、ブラック・ジャックはその誘いを断って闇の外科医の世界へと消えていった。

ジョー・キャロル・ブレーンの生い立ちと末路

 ジョー・キャロル・ブレーンは出生からして人工受精卵という誕生を経て、両親がわからず、親の愛情や温もりを知らないまま、幼い頃から閉ざされた集団生活の中で能力開発と競争選別という恐怖心を植え付けるような管理体制の中で育ち、心を閉ざす生い立ちを歩んできた。結果、成人して傍目には富豪に引き取られて何一つ不自由のない暮らしを保証された才媛として活躍しているように見えるが、養父である州知事の権力の駒として、養父に絶対服従する機械のように生きており、人間らしい感情を失った人生を送っている。

そのためか命の尊さやその重みを理解できないかのように振る舞い、養父の権力を笠に着て数々の医療倫理を踏み外した行為の挙げ句にエンドルフ・アーを開発、製造し、失敗とも言えるそのエンドルフ・アーの薬害の原因究明を仮面の笑みのような表情で、ピノコを人質に取り、半ば強引に押し付けるような形でブラック・ジャックに依頼するなど、人の道に反する事を、氷のように冷たい目で平気で繰り返す。

ブラック・ジャックはそれでもジョー・キャロル・ブレーンがモイラシンドロームに感染した際にも我が身を省みず手術を行い、幾度となくジョー・キャロル・ブレーンを危機的状況から救い出すことを試みる。なぜならジョー・キャロル・ブレーンはブラック・ジャックの患者なので、死の瀬戸際から救い出すことが自身の使命だからという信念に基づいている。

その真摯な姿にジョー・キャロル・ブレーンは長らく閉ざしていた心を開こうとするが、養父であり州知事であり、ブレーン製薬会長という絶大な権力者の刺客によって命を奪われ、巨悪に塗れたエンドルフ・アーの真相とともに闇から闇へと葬り去られてしまう。

黒幕と陰謀

いちばんの悪人は、金と権力による支配の欲望にとりつかれたジョー・キャロル・ブレーンの養父であるブレーン製薬会長でもある州知事だが、彼もまた、民衆の支持を得て政治を執り行う名士の顔を持つ。おそらく彼の社会での貢献をなくして多大な国益をもたらすこともなかったであろう。

その資本主義経済の利潤のサイクルを構築し、製薬分野を通して多くの人々に利益をもたらした社会のシステムの頂点に立つ州知事だが、その巨万の富と栄誉の陰には、同じく実に多くの人々の尊い命の犠牲の上に、彼の構築した利潤のサイクルが成り立っていることを示唆している。そして、それらが表面化して社会問題化するとトカゲのしっぽを切るように自分の養娘でも亡き者にするよう過激な判断を下すなど、この作品は異国の文化を借りて、資本主義社会の構造をドラスティックに描いているように思える。

ブラック・ジャック劇場版の官能的な正義感

そして、このアニメは社会の暗部に垂直に降りて行き黒幕と陰謀に迫るサスペンスの形を借りながらも、SF医療の世界の局面を描いている。

ブラック・ジャックという天才でありながらモグリの外科医という、任侠の世界観を匂わせるアンチヒーローの存在。

それはまさに、暗闇の路地で艶やかなネオンライトに照らされて浮かび上がり、その黒いマントを広げて妖しく、時には眩しい白衣のように、得体の知れない官能的な輝きを帯び放つヒーローなのである。

kyouei-drachan

 

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