劇画の始祖・辰巳ヨシヒロの半生を描いた『 TATSUMI マンガに革命を起こした男 』感想

TATSUMI

数年前、アメリカのオタク向けではない2、3軒の本屋に赴いた時、美術書コーナーに辰巳ヨシヒロのマンガが置いてありました。手塚治虫も、つげ義春も並んでいない棚に唯一置いてあった日本マンガは辰巳ヨシヒロの作品だったのです。

辰巳ヨシヒロは海外での人気が高く、今回ご紹介する辰巳ヨシヒロの自伝的映画『 TATSUMI マンガに革命を起こした男』(原題『 TATUSMI 』 )も、日本で作られた作品ではなく、映画監督のエリック・クーがシンガポールで制作した海外アニメです。

『 TATSUMI 』が持つ特徴的な物語構成

本作では、戦後から現代までの辰巳ヨシヒロの半生を描きながら、同時に辰巳ヨシヒロの執筆した5つの作品もオムニバス形式でアニメ化されています。

 

「地獄/HELL」

原爆直後の広島にやってきた従軍カメラマンの男は、原爆によって壁に焼け移った母子の影を激写する。

その影は、まるで子が母親の肩を揉んで孝行をしている最中の様に見えた。

そして終戦後、金に困った男は、新聞社にその写真を売り渡した事により、男は有名人になる。

しかし、そんな男の元に、影の事実を知る人物が現れる。

「いとしのモンキー/BELOVED MONKEY」

サルを飼っている工員の男は、自分の住んでいる部屋にいる時にだけ自身の人間性を実感できていた。

ある日、工場で事故を起こしてしまい片腕を失ってしまった男は生活に困り、サルを手放すことになる。

「男一発/JUST A MAN」

定年間際の花山課長は、職場にも家にも居場所がない。花山は退職金の皮算用をしている妻の不貞も知っており、退職後の生活に耐えられないと感じていた。

そこで、妻への密かな復讐のために、自分も浮気をしようと奮起する。

「はいってます/OCCUPIED」

子供向けマンガの連載の打ち切りを言い渡された漫画家の男は、吐き気を催して飛び込んだトイレに描かれた卑猥な落書きに更に吐き気を催す。

しかし、マンガへの情熱を失っていた男は、消されても卑猥な落書きをトイレに描き続ける見えない誰かの情熱に魅せられてもいた。

「グッドバイ/GOOD-BYE」

終戦後、米兵相手にパンパン(娼婦の事)をしているマリコには、金をせびりにやって来る父親がいた。米兵相手に体を売っているマリコに対して、世間の目は冷たい。

頼りにしていた米兵にも裏切られたマリコの元に、再び父親がやってきた時、マリコはある行動を起こす。

日本人の負の機微を確実に描く

本作は、脚本自体は辰巳ヨシヒロが書いているものの、スタッフはほぼ日本人ではないわけです。

それにも関わらず、戦後や高度経済成長期の日本人たちの疎外感や負の境遇を、見事に描き切っている点に驚かされます。戦後はまだしも、高度経済成長期の日本の男の境遇を克明に描いたアニメなんて、日本でもなかなか見当たらないものです。

『TATSUMI マンガに革命を起こした男』では、「劇画」の生みの親である辰巳ヨシヒロの半生と同時に、日本のマンガの黎明期を描いた作品です。

シンガポールアニメですが、本作は日本のマンガ史を知る上で、間違いなく重要なアニメになるかと思います。

ぜひ、チェックしてみてください。

 

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