「物」と聞いて、読者の皆様が思い浮かべるのは、どういった事柄だろうか。物体、物品、物事、物質。日常生活でも触れられる相手から抽象的な思考対象まで、色々な概念に対して日本語は「物」と名前を付けている。
つまるところ、およそヒトが感知出来る対象全てに対して、とりあえず的確な言葉が見つからない際、日本語は「物」と呼ぶわけだ。言いかえれば、世界全てを指し示す言葉、とする事も出来る。
そうした「物」を書くのが「物書き」であり、「物」を「語って」いるのが「物語」。世界を描く表現形式の一つであり、誰もが夢中になる作品群なわけだ。
さて今回は、天才的「物」書き・西尾維新先生の生み出した「物語」、『物語シリーズ』──その前日譚を紹介して行きたい。
『化物語』の前日譚
元々『物語シリーズ』は、前後篇で綴られる『化物語』を第一作として世に出た作品だ。
しかし、『化物語』は物語の開始時点で、既に幾ばくかストーリーが進んだ形になっている。それ単独でも作品としては十分に鑑賞出来るが、過去の出来事を完全に理解する事は出来ない作りなわけだ。
そこで、「化物語」が発売された後、「前日譚」と称して発売されたのが、今回紹介している『傷物語』なのである。
本作を読破・鑑賞することによって、より鮮明に『物語シリーズ』を理解する事が出来るだろう。
『物語シリーズ』初の劇場版
日本のアニメ作品は、最初からスクリーンで上映される事を想定して企画が練られることもあるが、まずテレビシリーズとしてアニメを製作・放映し、ヒット具合を確かめてから映画化する、と言う事も多い。本作は、後者の形で銀幕デビューと相成った作品だ。
二十一世紀以降のテレビアニメでは、トップから指折りで数えられるほどにヒットした『物語シリーズ』。その劇場版作品として製作が決定したのが、本作『傷物語』なのである。
アニメ化が発表されてから、随分時間を経ての上映となったために、一時は製作がストップしたのではと言う噂さえ流れていた。
しかし、2016年1月8日に、三部作の第一作〈鉄血篇〉が無事に上映された。散々待たされた反動があったのか、興行収入はかなりの数値に登っている。
第二作〈熱血篇〉の上映も無事に行われ、現在は最終作〈冷血篇〉の上映が待たれている状態だ。
劇場版では、原作の最大の魅力である、言葉遊びやキャラクター性が再現されているのはもちろんのこと、総監督・新房昭之氏特有の奇抜な演出や、テレビシリーズと全然違うじゃん! と言われるほど、気合いの入った作画やキャラデザが楽しめる。
未試聴の読者が居れば、残念ながら映画館での上映は既に終わりかけているため、DVDが出るのを待って、是非とも購入して頂きたい。