普段何気なく見ているアニメですが、その中にも学べることは多くある。この記事では、そんなアニメから学べる知識を読者の皆様にご紹介します。今回ご紹介するのは、「 PTSD 」という精神疾患とその治療法について。そして、その教材となる作品は「 ソードアート・オンライン 」です。
「 ソードアート・オンライン 」のキリトもまた、PTSDに悩む一人ではないか？
「 PTSD 」別名、心的外傷後ストレス障害とは、生命の危険やそれに準ずる危機的状況を経験した後、その記憶が原因となり、フラッシュバックや強い恐怖感を感じるようになり、日常生活に支障を来たしてしまう病です。
「 ソードアート・オンライン 」の主人公であるキリトは、ゲーム内での死が現実の死に直結する状況の中で、仲間の死や、殺人といった精神に著しい影響を及ぼす体験をします。
無事にゲームをクリアし、現実世界へと帰還できたキリトですが、果たしてSAO内での精神的ダメージはそれで癒えたと言えるでしょうか・・・・？
現実でも、戦争に赴いた兵士が自国に帰った際、戦地での体験が忘れられず、大きな物音に対して過剰に暴力的な反応をしてしまったり、社会復帰が困難になるという事例が多くあります。
このことを考えると、仮想世界の中でとはいえ、多くの人間の生き死にに関わったキリトがさらりと日常生活に帰れるとは思えません。
彼もまた、「PTSD」に悩まされていると考えるのが妥当です。
「PTSD」患者の多くは、自身の辛い経験から逃れる為に嗜好癖が強まるそうです。
タバコやお酒、果てはドラッグなど、依存性の強い現実逃避にハマりやすくなって仕舞うのですね。
キリトの場合、「SAO」から帰還して直ぐに悪夢を見てうなされて起きるなど、すでに「PTSD」の傾向が強く現れています。
その後、アスナのピンチをうけ、ALOへと旅立つわけですが、ここで一つ疑問が生じます。
SAO内であれだけの経験をし、悪夢を見るほどに精神的ダメージを追った人間が、そんなに簡単に同じような世界へのフルダイブなんて出来るのでしょうか？
筆者は「PTSD」になる程の辛い経験は幸いありませんが、それでも仮に自分がキリトだったとするならば、ALOへのフルダイブにはかなりの抵抗を感じる事は容易に想像がつきます。
ですが、キリトがALOをプレイすることに恐怖や抵抗を感じるような描写はアニメには見られません。
ここで筆者が考えたのは、「キリトにとっての嗜好癖がゲームだから、PTSDの原因となったゲームでもすんなりとプレイ出来てしまうのではないか？」という仮説です。
先述した通り、PTSD患者の多くは辛い経験を紛らわす為に嗜好癖が強くなります。その嗜好癖の対象物となる物は、患者が以前から嗜好していた物が多いそうです。
この観点から言えば、ゲームを愛好してやまないキリトが、辛い経験を紛らわす為に逃避する先がゲームというのもごく自然な流れになります。
ゲームによってPTSDになってしまったキリトが、ゲームによってPTSDから逃れようとする。
こう考えると、彼がただ強いだけのヒーローではなく、複雑な心理と弱さも抱えたキャラクターであることが分かりますね。
では、キリトがPTSDの悪夢から抜け出す方法とは？
ここからは、実在するPTSDの治療法と、そこから紐解けるキリトの心理状態についてお話しして行きます。
実在するPTSDの治療法に、「持続エクスポージャー療法」という物があります。これは、患者に敢えてPTSDの原因となった経験について曝露(エクスポーズ)させる事で、トラウマに対する慣れを作る治療法です。
PTSD患者の多くは、原因となった体験に対して強い回避意識を持ち易く、その事を無かった事にしようとする余り、却って何時になっても忘れる事も慣れる事も出来ずに長く苦しむ事になりがちです。
そういった患者に、トラウマを忘れさせるのでは無く、慣れを作ることで恐怖感を最小限に抑えてしまおうという治療法なのです。
一般的にはカウンセラーと一対一の会話形式で行う治療法で、PTSDの原因となった体験を患者が口頭でカウンセラーに対して曝露する方法ですが、一部で行われた新しい試みとして「ＶＲセラピー」というものがあるそうです。
実際にこの治療法が使われたケースには、PTSDに悩む帰還兵にバーチャルで作った戦場を体験させて治療したケースがあり、バーチャルベトナムプロジェクトと呼ばれていたそうです。
このケースをキリトに当てはめてみると、キリトのPTSD治療に最も効果的だと考えられるのは、「再びゲームの世界へのフルダイブを行う事である」という仮説が立てられます。
ゲームによって患ったPTSDから逃れるためにゲームに逃避し、それが偶然にもPTSD治療に繋がった。
そう考えると、キリトの辿る運命が非常に数奇なものであることが伺えますね。
今回の記事では、「 ソードアート・オンライン 」のアニメ一期だけの情報で書かせて頂きましたので、二期以降をすでに鑑賞された方ならば、この記事の内容に対して「なるほど、あれはそういうことか」と感じていただけるのではないかと思います。
余談ですが、実在のＶＲセラピーは常に精神科医がそばに控えた状態で行うそうで、人によってはかえってPTSDが重度に進行してしまう可能性もあるそうですので、一般の方は絶対に真似しないでくださいね。
